第五顔目(下) 『統合失調症になった。絵を通じて15年ぶりの新しい友達が出来た』(ささち:二分脊椎・統合失調症)

はじめに

さて、前回は二分脊椎と統合失調のある主婦「ささち」さんの身体障害者の部分を語っていただきました。

はじめに 「障害者」も一人ひとりが人間だよ、という理解啓発を進めることを目的として解説した本サイトも5人目です。 今回は「One Hun...

続いての今回は「統合失調症」の部分を話していただきした。「身体障害より精神障害のほうが地獄」というささちさんにどのような問題が発生し、どう回復してきたのでしょうか?

そして、絵の持つ力について、ぜひお楽しみください!

登場人物

ささち 統合失調症で先天性の二分脊椎という病気で内部障害がある37歳の引きこもり主婦。毎日絵を描いていて、ピアノを弾いてます。時々、展覧会などもやります。

くらげ 聴覚障害のあるADHDなおっさん。山形県出身東京都在住。 本サイトの管理人で趣味は人の話を聞くこととコラムを書くこと。 最近、YouTuberデビューしました。 ツイッター 公式ブログ

インタビュー

インタビューを受けてみて

〔く〕 こんばんは。くらげです。さて、前回のインタビューを受けていかがだったでしょうか?

〔さ〕 インタビューを通して、久しぶりに自分のこと話せて純粋に楽しかったなあと思いました。 また、前回の記事を近しい友人に読んでもらったんですが、「読んだよ」って一言もらえただけでも一歩前に進めたなあと感じました。普段なかなか自分のことについて言えないことだったので。

イラストを書いているところ

〔く〕 それはよかったです。私としてもインタビューを通して気づきがいろいろありました。オムツをつける抵抗感とかですね。

〔さ〕 そうそう、そういう困りごとをいえるところが本当に少ないんです。だからインタビューを受けてよかったです。

〔く〕 結構恥ずかしいことだと思いますが、話していただいてありがとうございました。さて、前回は「身体障害」の方にフォーカスを当てて話していましたが、今回は精神的な問題について取り上げていきたいと思います。まず、前回は身体障害と比較して「精神障害の方がつらい」とおっしゃっていましたが、どのような点で比較されたのでしょうか?

統合失調症は地獄

〔さ〕 自分の力で対処できるかできないかです。 身体の症状は杖をつく、オムツやカテーテルなどを使うなどで自力でカバーできます。でも、精神症状は私の力だけでは何ともならなかったです。24時間の不安と焦り、死へ向かう思考を自力で何とかするのは途方も無いことです。発病からしばらく、地獄だな、と思ってました。

〔く〕 「どうにもならない感じ」は私も躁鬱がひどい時期はずっと感じていました。身体に比べてコントロールが難しい、というのは重要な指摘ですね

〔さ〕 きちんと服薬をするということすら生活が崩壊してると難しいですよね。実は服薬を習慣化するまで、私は16年を要しました。服薬出来るようになったら今までが嘘みたいに心が平和になりました。

〔く〕 まず、そこからですよね。私もあお(妻)が服薬管理してくれるようになってから急激に症状が緩和しました。薬のまともに飲めるところに行くまで大変なのが精神疾患…。ところで、なぜ統合失調症に?

5歳児に退行していた!?

〔さ〕 幼い頃から、人間関係を築くのが難しく、友達がいないし、作れたとしてもすぐ関係が悪くなったり、ハブられたりしていました。高校生の頃にはクラスの誰とも友人関係を築けず、大学デビューするぞ!と頑張ったけど、やっぱりダメだった。こういうストレスがトリガーだと思います。

〔く〕 ASD(高機能自閉症)の診断は下りないけどグレーゾーン、でしたっけ?

〔さ〕 そうですね。ASDの傾向を見る検査では「傾向がある」結果が出るのですが、IQの検査では発達障害とは言えないみたいです。描いた絵があるのですが。

[く] めちゃくちゃわかりやすいですね!こういうグレーゾーンをどうすればいいか、みたいなこともあるのですが・・・。統合失調症を発症して、どういう問題が起こりましたか?

〔さ〕  在学中の20歳で発病して、21歳ごろから〜24歳ごろまで何も出来ずに寝てるだけになってしまいした。統合失調症の被害妄想や幻聴に疲れ果ててしまった結果だと思います。おそらく陰性症状というものです。 その間、私はほとんど5歳児でした。

〔く〕 5歳児?

〔さ〕 生活能力が下がって身の回りのことができない、絵を描いてみるとまるで子供が描いたみたいになってしまう、守られた環境でしか人と会話できないという状態になりました。心理的にも、家中、母の後ろをついて回ったりと、子供になってました。

[く] そういう症状になるとは本とかで読んだことはあるのですが、本当に起きた方のお話は初めて聞きます。

[さ] でも、その間のことってほとんど覚えてなくて、たいして話せることがないんですよ。気がついたら25歳になってた感じです。大学も中退していました。

絵を書くという「回復」術

[く] 21歳から24歳まで5歳児になっていて、25歳から復活されたとのことですが、そのきっかけはなんだったんでしょうか?

[さ] それは、今も続けているチャリティ展覧会に誘われたのがきっかけです。もしかして絵を通して他人と関われるのでは、という希望が見えたので。

[く] 絵が回復に深く関わっているのですね。

[さ] 回復と絵はすごく関係ありますよ。今の絵は、「こころのすましかた」というテーマですが、以前は「少女のこころ」というテーマで描いていました。「少女のこころ」は、私(大人ではない少女)の内面を描くものでした。今見返してみると、すごく病んでたんだなあと思います。つらい気持ちを描いて認めていく作業でした。気持ちに蓋をしないで表現したことで、とても救われたし、それを展覧会や個展で観てもらって、同じ境遇の人と話ができたりしました。

展覧会で展示された絵たち

現在の「こころのすましかた」は、全然内容が違って、自分のこころを澄ます、自分の気持ちをコントロールすることを目的に描いています。自分の心が澄んでいくイメージを持ちながら描いて、癒されていく、自分を操縦できるようになる。でも「少女のこころ」も「こころのすましかた」も、自分の為に描いているところは同じです。

[く] なるほど。心の状態を絵でコントロールする、というのはとても素敵なことですね。

[さ] でも「好きだから描いてる」のが一番の理由です。私の場合手段が絵を描くことでしたが、くらげさんは文書だし、ゲームの人もいるし、読書とか、映画を観るとか、夫はプログラムしてるときが一番楽しいみたいだし、人それぞれかなあ。

[く] 人それぞれに「楽しいこと」があってそれを突き詰めることで楽になれれば一番いい生き方が出来るのではないか、という信念が私にはあります。

[さ] 私は人と関わるのが苦手なので、絵で自己表現できたのは本当に良かったと思います。その結果、ようやく最近リアルで絵を描く友達が出来ました。長かった…、新しく友達を作れるようになるまで本当に長かった。

[く] 本当に良かったですね!一度5歳まで退行して、そこから新しい人間関係を作るまで15年ですか…。すごいなぁ。

[さ] 自分でも信じられないです。その間、支えてくれた家族や夫には本当に感謝してます。

パートナーと猫

[く] 最後に、パートナーさんとの出会いについていいですか?

[さ] 大学の漫研の先輩だったんです。病気になる前に付き合って、病気になったあとも週に一度は会いに来てくれてました。会いに来てくれたときに、ちょっと外出してみよう、お店に入ってお茶してみよう、と外に出る練習に付き添ってくれました。

[く] なにその聖人…。

[さ] 実は夫の身内にも統合失調症の方が居て、私が病気だから離れるというのは自分の正義ではない、と以前言ってました。

[く] おとこまえだ!

[さ] 男前ですね…。余談ですが、回復の助けになったことがもう一つあって、猫が来てから、こんな小さい生き物が日中頼るものが私しか居ないなんて!って思ったら、めちゃくちゃ心を強く持つようになりました。

カゲチヨ(猫)

[く] すごい美猫だ(笑)

[さ] この子が来てから、自分が不安がってる場合じゃなくなった、というか。カゲチヨ(猫)の母親代わり、友達代わりをやっております。

[く] 本当に自分の「好き」と外側の「見守り」、あとは「自分がしっかりしなきゃという自認」の3つが支えているわけですねぇ。いや、本当に今回もいい話を聞けました。ありがとうございました!

[さ] こちらも楽しかったです。ありがとうございました!

編集後記

このサイト初の前後編となったささちさんのインタビューはいかがでしたでしょうか。

「二分脊椎」と「統合失調症」のどちらも「大変」なことには変わりませんが、「自分の力で対処できるかできないか」が辛いかどうかの分かれ目になる、という指摘にはなるほどと思いました。障害は「ままならない」ものですが、そのままならなさをどうするかが生きていく鍵なのでしょうね。

ささちはさんは絵で自分の心を「回復」させ「つかみ」「コントロールできた」からこそ、いま、こうやって話せているのだと思うと、アウトプットには人を助ける力があると思うのです。

もちろん、アウトプットが出来るようになるには周囲の手助け、環境調整が不可欠です。ですから、凹んでいた人がいたら、まずは見守り、安心してアウトプット出来る働きかけを促してください。その先にこそ新しい光があるかもしれませんよ。

では、今回はこれくらいで。では、今回はこれくらいで。次はどのような「顔」を発見できるのでしょうか?お楽しみにー!