第三顔目 『障害を負ってわかる偏見の強さと生きる意味としての飛行機旅行』(スガB:ASD・不安障害)

はじめに

「障害者」も一人ひとりが人間だよ、という理解啓発を進めることを目的として解説した本サイトですが、今回で3人目となります。

はじめに 「障害者も人間だ」ということをコンセプトに様々な障害のある方との対談をまとめるという試みの第一弾です。 先日、私の公式ブログで...
はじめに 前回の記事は大変多くの方に読んでいただけました。ありがとうございます。 前回はかなりイケイケなイメージでしたが、今回は「特...

今回はこのサイト初の男性です。発達障害と診断された直後に私が開催する「くらげ&あお発達障害バー」に来ていただき、そこから発達障害の理解が深まったそうです。

また、彼は本当に旅行が好きで頻繁に飛行機に乗る、という趣味があります。なぜ旅行に行くのか、その困難はあるのか、などを今回お聞きしました。

登場人物

スガB
30歳男性。不安障害から発達障害(ASD)と診断される。今は退職して無職。旅行が大好き。
ツイッター

くらげ
聴覚障害のあるADHDなおっさん。山形県出身東京都在住。
本サイトの管理人で趣味は人の話を聞くこととコラムを書くこと。
ツイッター 公式ブログ

インタビュー

[ス] スガBです。よろしくお願いいたします。

[く] よろしくお願いいたします。スガBさんの簡単な自己紹介をお願いいたします。

[ス] 30歳の男性で発達障害(ASD)と診断されて不安障害もあります。今は不安障害で退職して療養中です。

[く] スガBさんは私が定期的に主催する「くらげ&あお発達障害バー」に参加していただいたところから知り合ったんでしたね。

[ス] はい、発達障害の診断を受けてからすぐのタイミングで発達障害が何かすらわからなくて情報をいろいろ探していました。その中でくらげさんの「ボクの彼女は発達障害」を読んで、その流れでツイッターをフォローさせてもらってイベントにも参加したという流れです。

[く] 本を買ったりイベントに参加してくれたり、本当にありがとうございます。作者冥利につきます。ところで、発達障害バーはいかがでしたか?

[ス] 発達障害者が集まることが初めてで最初はどうなるか想像もできなかったんですが、普通に飲み会として楽しめました(笑)次回も参加しますのでよろしくお願いいたします。

[く] こちらこそよろしくお願いいたします。発達障害者が集まるというとかなり大げさなものを考えがちなのですが、「普通にただ飲む・駄弁る」ということを目的にしていますので、普通に楽しんでいただけてよかったです。

不安障害にいたるまで

[く] さて、スガBさんは不安障害があるとおっしゃっていましたが、不安障害になったのは発達障害の影響なのでしょうか。

[ス] 私は聞いたことをすぐに理解して判断するのが遅いです。専門学校を卒業して契約社員と派遣社員になったのですが、派遣ではデータ入力関係の部署で営業サポート役も任されました。そこでは常に様々な判断をすぐに求められる場所なので、まったく仕事ができませんでした。見かねた上司が何度もサポートしてくれたのですが、全然仕事が覚えられません。それである日の朝、出社しようとしたら体が動きませんでした。無理に行こうとしても心臓がばくばく動悸がして倒れそうになりました。もう無理だと精神科に行ったら「不安障害」と診断されました。その後、服薬しながら仕事に通っていたのですが、不安で押しつぶされそうになって電車の中で失神になりそうなときもありました。

発達障害があるとわかってほっとする

[く] 私も精神障害が酷かった時期は電車がとてもつらかったです。そこから発達障害とはどういう流れでしょうか?

[ス] 不安障害がいつまでもよくならなくて主治医から「発達障害かもしれない」と言われて大病院を紹介されました。そこでWAIS-Ⅲというテストを受けましたら発達障害(ASD)と診断されました。

[く] WAIS-Ⅲは発達障害のポピュラーな検査方法ですね。診断を受けて最初はどのような受け止めをされましたか?

[ス] 昔から「生きにくい」とは思っていたんです。まず、友達との約束を覚えられない。遊ぶ約束をしていてもすぐに忘れてドタキャンしてしまうんです。このせいでかなりいじめられました。数学とかも極端にできないし英語の成績も悪かったです。結果を見たときもそれほど驚きはなく、むしろほっとしたのを覚えています。それでも不安障害がよくなるわけではないので退職してしまいましたが・・・。

[く] 発達障害があるとわかってほっとしたのはなぜでしょうか。

[ス] 努力が足りないとかではなくて障害だったんだ、という安堵感でしょうか。もし発達障害でなかったら「努力不足」や「頭が悪いわけ」ということになってしまう怖さがありました。

[く] 本当は「努力不足」でも「頭が悪い」という状態でも「できないことはできない」といえることが大事だと思うのですが、どうも今の社会は「できない」ってことに厳しすぎる気がしますね。

不安障害があるけど趣味は旅行!?

[ス] それはありますね。でも、逆に障害があると旅行にいくと「なんで障害があるのに旅行に行くんだ」といわれます。私は子供の頃から旅行が大好きなので今でも体調がいいときは台湾に行ったりするんです。

[く] 台湾行くのってかなりお金がかかりませんか?

[ス] いえいえ、今はLCC(格安航空会社)がいろいろあって、時期を選べば4万円あれば2泊3日できますよ!

台湾の街並み(スガB撮影)

[く] へぇ、そんなに安いんですか!ところで、旅行といってもいろんな楽しみ方がありますがスガBさんはどのような楽しみ方を?

[ス] 私は乗り飛行機なんです。

[く] 乗り飛行機?

[ス] はい、もともとは鉄道オタクで電車に乗ることが好きという「乗り鉄」だったんです。夜行列車とかにもよく乗っていました。それが飛行機に変わった感じです。LCCが発達してかなり安く飛行機に乗れるようになったからできる趣味ですね。

[く] ADHDとしては移動時間というのはもう「早く着かないかな」といらいらしている時間ですが(笑)どういうところを楽しむんですか?

[ス] 飛行機に乗って景色を眺めているとふさぎ込んでいる気分が開放されます。それに機内食とか機内誌などが運営会社によって全然違うんですよ。各社とも安いけども乗客を快適にするために工夫を凝らしていて、そういうところを調べたりするのが好きなんです。

飛行機から眺める光景(スガB撮影)

[く] 普段あまり気にならないところに注目しますね。ご飯は気になりますが(笑)

機内食。腹減った。

[ス] そういうところが気になって仕方がないのがASDっぽいところかもしれないですね。LCCが好きすぎて、自分で旅行の同人誌を作ってコミケに出したりしています。

[く] 同人誌まで!?すごい情熱ですね!

スガBさんが出版した旅行同人誌。すごい。

[ス] 機内食や機内誌、台湾旅行記などの同人誌を作りました。このような趣味があるからまだまだ生きていたいな、と思えます。今の自分から旅行を除くと本当に何も残らない気がします。

障害を持ってわかる偏見と生きる目的

[く] 障害や病気があるとなにか旅行で困ることってありますか?

[ス] 体調がいい時を選んでいくのでそれほど困ることはありません。ただ、仕事をしていた時の貯金などがまだあるので特に誰かに迷惑をかけるわけでもないのですが、「精神障害で仕事をやめたのに海外旅行に行くなんて」というような苦言が家族からもあります。それがつらいです。

[く] 精神障害になると遊ぶな寝てろ動く気力があるなら働け、となりがちです。でも、ほどよく遊ぶ・外に出るというのも心を立て直すには必要なことなんですよね。

[ス] 退職してだんだん良くなっているとはいえ、不安障害の発作が起きると寝ているしかなくなります。でも、そういうときにこれを乗り越えれば旅行にまた行ける、というのが励みになります。なにもずっと寝ているだけが過ごし方ではないんです。むしろ偏見だと思います。

[く] 障害があってもそうなのですが「普通に遊ぶ」ということがどうも異常なこと、として受け止められることが多いです。耳が悪いけどカラオケが好きとか、ボーリングにいくとか、それ自体がおかしいことのようにいわれることもあります。そういうのはやはり偏見ですね。

[ス] 不安障害を負ってから「偏見」というのはこれほどつらいのかと初めて感じました。だからこそ旅行はやめたくないです。

今後の目的について

[く] さて、そろそろお時間ですが・・・。最後に、これからどうしたい、という将来のプランはありますか?

[ス] もう少し体調が安定したら就職活動を始めたいです。障害者就労を考えていますが、できれば飛行機に関わることがいいですね。そしてお金に余裕ができたらもっと旅行の回数を増やしたいです(笑)

[く] それはとても大事なモチベーションですね!就職活動がんばってください!今日はありがとうございました!

[ス] ありがとうございました!

編集後記

障害のある人の「生き方」は誰かに指摘されるものでは本来はないはずです。しかし、なぜか「障害がある・病気がある」ということでどこかしら「規範」「限界」のようなものが自他にできてしまうことが多いのではないでしょうか?

「生きていく」。そのことは誰にも口を出す権利はない。できることを「するな」という。そのような言葉を口に出す時、もしかしたらそこに「植松聖容」がひそんでいるかもしれません。

そのような「限界」を突破するもの。偏見に負けない力。その一つとして「生きていく意味」としての「自分を信じる力」。

「このためなら今がつらくても耐えられる」と信じることができるものが一つでもあることは障害があろうとなかろうと人生を充実させるうえで大事なものでないかと感じています。

スガBさんと話していて強く感じたのは「趣味」というものの力でした。ASDと診断されて間もなく「発達障害者としてどうやって生きていけばいいかわからない」も言っていましたが、それ以上に「旅行が好き」というエネルギーがありました。

偏見に負けない強さは生きる楽しみから生まれます。だから、私たちは「楽しく生きる」ことも大事なのではないでしょうか。そういうことを強く感じた対談でした。

では、今回はこれくらいで。次はどのような「顔」を発見できるのでしょうか?お楽しみにー!