はじめに
前回の記事は大変多くの方に読んでいただけました。ありがとうございます。
前回はかなりイケイケなイメージでしたが、今回は「特に何もしていない」という「普通の障害者」で普通に主婦を営んでいる方と対談しました。
「普通」の中にある困難、困惑は当然ながらどのようなことが好きなのか、どういう生活をしているのか、ということを感じていただけれれば幸いです。
登場人物
珊瑚
視覚優位、聴覚過敏のアスペルガー症候群。既婚、3人の子供がいる。(長女…アスペルガー症候群、長男…非定型自閉症、次女…高機能自閉症)
ツイッター
インタビュー
以前から相談を受けてました
[く] 今回はブログで「インタビュイーを募集します」と書いたらその当日に「インタビューして欲しい」とメールを送ってくれた珊瑚さんです。よろしくお願いいたします。
[珊] 珊瑚です。よろしくお願いいたします。視覚優位、聴覚過敏のアスペルガー症候群です。
[く] 珊瑚さんからは以前「高校生の次女が軽度知的障害があるけど学習意欲が旺盛なのでどうしたらいいか?」という相談を受けたことがありましたね。
[珊] その節はありがとうございました!次女は無事に高校3年生になり、卒業後は放送大学は進んで基礎科目を中心に履修してみることになりました。そこから先は放送大学で卒業まで過ごすか、他大学へ編入するかと言う段階までは煮詰めることができました。これはくらげさんと高校の先生方のアドバイスの賜物だなと思ってます。
障害が発覚する経緯
[く] ありがとうございます。参考になったよかったです。確か気象学に大変興味を持っている、とのことでしたので思う存分勉強できるといいですね。そういえばお子さん全員が何かの障害があるんでしたよね。
[珊] 長女が発達障害で、長男と次女が知的障害ですね。長女の発育がちょっと普通ではないので診察したら「発達障害」と診断されました。当時は私が発達障害と診断されてなかったのでショックでした。
[く] 珊瑚さんが診断されたのは長女の後なんですね。
[珊] そうです、長男よりは後だけど次女と同時期です。子どもたちがお世話になっているドクターに私の生きづらさ的なことをお話ししたら診てあげるよ?って話になって。WAIS-Rとか受けて総合的にアスペルガー症候群と診断されたのが、今から13年ほど前のことですね。
[く] 最近はお子さんの発達障害が判明した後、親御さんも発達障害と診断されることが増えているようですね。それで話を聞くと親御さんも昔から困っていた・・・、という。
昔から困っていたけど…
[珊] まさにそのケースです。小学2年生の時、病気で長期療養をせざるを得ない状況になってしまったんです。学校に復帰はできたのですが、勉強が遅れてて九九が全くできなくて。担任はやさしく教えてくれたのですがクラスメイトの保護者が「それはえこひいき」と口を出してきて、それでイジメがはじまりました。上履きの中に墨汁が並々と注がれていていたとか、リコーダーの中が工作で使う糊でビッチリとか、下敷きがジグソーパズルみたいに折られてたりとか。以降義務教育期間終了まで不登校で過ごしました。
[く] それは凄惨ですね・・・。その九九ができないというのは学習障害とかは関係ないのでしょうか?
[珊] 勉強自体は大好きでしたよ。不登校の間は百科事典読み倒したり、担任が持ってくるプリントやってたし、珠算の教室や音楽教室とかにまめに足を運んでました。ただ、教室という衆人環視のなかでは緊張しすぎて勉強できなかったんです。それが躓きでした。
[く] 40人もの中で何かをするって本当に苦しいときがありますもんね。家庭環境はいかがでしたか?
[珊] 学校でも苦しんでいましたが、なにより一番の理解者であろう筈の両親が一番理解がなかったのが辛かったです。怠けとか気合いが足りない、というばかりでした。暴力をふるわれたこともありますし周りの大人も見て見ぬふりで「大人は敵だ」と思っていたこともあります。
珊瑚さんにとっての家族とは?
[く] 成人発達障害者あるあるですね。しかし、親に対して不信感を抱いていると結婚をためらうことが多いようですが、旦那さんとはどのように知り合って結婚したんですか?
[珊] それを聞くんですか、恥ずかしいですね(笑)
[く] ボクの彼女は発達障害なんて本を出している人間がインタビュアーですから(笑)
[珊] ベタですが社内恋愛です(笑) 若さゆえと言うか実家から離れられるチャンスと思ったので勢いで結婚しました。主人が大らかな性格なので助かっています。でも、私が自分に障害あると分かっていたら結婚はできたかなと思うことはあります。一般的にだけどわが子の嫁か婿になる人間に障害があると分かっていて、オッケー!って言える人は少ないですよ。
[く] 私の家系は3代続けての難聴で祖父も母も弟もなにかと親戚関係では大変だったようです。私と妻は両方障害者なので親が顔合わせの時、お互いの母親が「こんなんでいいの?」と言い合ってましたが(笑)
[珊] くらげさんが特殊すぎるんですよ!(笑)
[く] ところで、珊瑚さんにとってご家族とはどんな存在でしょうか?ASDって空気読めないとか人の感情がわからないとかいうじゃないですか。でも、家族が大事だったり愛しているのは変わらないんじゃないかと。
[珊] 愛ですか・・・。なんだろう。感じてないのではないのだけれど、私自身が愛されたと言う確かな記憶とかを持ってないから、言葉にしづらいのかも。あえて例えると太陽であったり、水であったり、空気のような存在ですね。
[く] あってあたり前でないと生きていけないってことですよね。それは私が解釈すると「愛」になります(笑)
[珊] そういうニュアンスでお願いします(笑) ただ、家族に対してもストレスフルではありますが・・・。
[く] そりゃ、どこの家族もストレスは抱えてますよね。私も妻に対してストレスフリーかというとそうでもなく。
[珊] 子供の障害からくるトラブルの対処に学業の問題に将来の不安に・・・、それに姑もいますし・・・。実家との関係も考えると気が重くなります。
[く] なんか障害者家族って障害があるけど仲良し!みたいな取り上げられ方すること多いですがそんなわけあるか!となります。普通の家族も普通にストレスフルらしいっすからね!職場の飲み会にいくとそれは健常者の同僚から家庭の愚痴が山ほど!
[珊] 家族の問題で躁鬱に悩まされた時期もありましたけど、子供たちのことを考えると沈んでばかりもね?
初音ミクという「多様性」が好き!
[く] 大変なんだけどその大変さやストレスが体を動かしてくれることもありますもんねぇ。ところで、そんなストレスフルな生活を癒す趣味みたいなものはありますか?
[珊] 最近はあみぐるみとか靴下なんかをよく編んでます。靴下は足が小さくて市販のものだとサイズが合わないから必然的に編まざるを得ない状況なんですが、あみぐるみは初音ミク(ボーカロイド)さん好きが高じて好きな気持ちを形にしたくてこうなった…みたいな感じです。
[く] (FBの)アイコンのものは手縫いの初音ミクなんですね!なぜ初音ミクにはまったんです?

珊瑚さん作のミクぐるみ。これでもミクとわかる初音ミクの造形力すごい…。
[珊] 親に何か一つだけ感謝することは?と問われたら、音楽を習わせてくれたことです。学校ではイジメられて家ではぞんざいに扱われても、音楽教室の先生方やレッスン仲間からはそんな酷い扱いを受けなかったし、人生を豊かに彩ってくれたから。私の生き方の芯にあるものは紛れもなく音楽だと思う。初音ミクは楽曲を作る人の数だけ、ミクさんを描く人の数だけ、踊る人の数だけ、と携わる人の数だけさまざまなミクさんが存在して認められるってところに魅力を感じたのかなと。これは多様性でしょうか?
[く] 一つのアイコンの中でみんなが好き勝手にわいわいしている楽しさというかフラットさというか。
[珊] 今もTwitterで世間からはミクさんが好き過ぎる(仲間内ではミク廃とか言ってます)人たちと交流がありますけど、年齢は下は小学生、上は私(49歳)くらいと幅がすごくあるけれど気持ちは一つってあたりも面白いところです。そんな私を主人や子どもたちは受容してくれていて、イベントに参戦するわ!って時にはグッズを購入してとか言ってきたり、あみぐるみを作成するときは色合いやバランスなどを確かめて貰ったりしてますね。 良き理解者です。
[く] 理解のあるご家族ではないですか!うちなんかガジェットを買うのを許してくれないんですよ!
家族って難しいですよね
[珊] それは無駄遣いだからでは・・・。まぁ、私も家族をよく理解してくれるところもあればそうではないこともあります。長女がアイデンティティと言うか診断の受容に時間がかかって、適応障害を発症していたんです。でも、発症したことを家族に話せなくて一人苦しんでいた、と知ったときは私も主人もすごくショックでした。私はフランクな関係を構築していると思っていたので、長女の家の中に私の味方は誰もいないと言う一言を真に受けてさめざめと泣き暮らしてましたし。家族って難しいです。
[く] 私は子供はいないですが、二人の生活でも軋轢が起きることは多いです。そのたび苦労するわけですが、それでも家族で歩んでいくしかない。そこには障害のあるなしはあまり関係ない、というか覚悟するしかないなと。
[珊] そうですね。覚悟するしかないです。これからも茨の道を歩んでいきます(笑)
[く] はい、お互い茨の道をがんばって歩んでいきましょう(笑) 今回はありがとうございました!
[珊] ありがとうございました!
編集後記
今回は[家族]を軸に編集しました。障害がある人の家族というと「大変」か「仲がいい」のどちからかしか取り上げられない気がします。しかし、人間だもの、どちらかに固定されるのではなく「どちらもある」で突き進むものだと思うのです。
「何も成し遂げていない」という珊瑚さんですが、私には障害のある家族とともに生きていく、と覚悟している珊瑚さんの姿はとても格好良く思うのでした。
では、今回はこれくらいで。次はどのような「顔」を発見できるのでしょうか?お楽しみにー!